営業成果を継続的に生み出す仕組み「セールスイネーブルメント」の第一人者である株式会社Xpotential代表取締役会長の山下貴宏氏。その山下氏が2026年11月5日、『営業生産性 なぜあの会社の営業は、少ない人数で圧倒的な成果を出せるのか』(かんき出版)を上梓しました。
3冊目の著書となる今回は、営業活動の改善が経営にとってどれぐらいの投資対効果を生むのかファクトを示しながら解説し、営業組織を変える体系的な方法を四つの柱で示しました。
本記事の前半では山下氏に著書のポイントを聞き、後半では営業人材の育成に注力する株式会社BuySell Technologiesの代表取締役社長兼CEOの徳重浩介氏に、取り組み内容と成果、課題を聞きました。
◆プロフィール
株式会社Xpotential
代表取締役会長
山下 貴宏氏
法政大学卒業。日本ヒューレット・パッカード株式会社、株式会社船井総合研究所、マーサー・ジャパン株式会社、株式会社セールスフォース・ジャパン Sales Enablement本部長を経て、2019年株式会社Xpotentialを共同創業、代表取締役CEOに就任。2025年2月より現職。著書に「セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方」(かんき出版)、「トップセールスだけに頼らない組織を作る実践セールス・イネーブルメント」(翔泳社)
営業を強化しても検証できている企業はとても少ない
――新著を出版しようと思ったきっかけは何でしたか。
山下
当社は、大手企業を中心にセールスイネーブルメントの導入と運用を支援しています。導入する企業も増え、イネーブルメントが広がってきています。
企業の営業組織を支援する中で感じた共通課題があります。それは、営業強化のためにさまざまな施策を講じても、取り組んだ結果をしっかり検証している企業はとても少ないということです。その最大の理由は、施策の目的が「営業成果の改善」ではなく「施策の実施」になってしまっているからではないでしょうか。
研修を実施する、AIツールを導入するといった時点で満足してしまい、導入前に「何の指標を、どのくらい改善するのか」を決めていません。ゴールがなければ、検証のしようがないのです。さらに研修は人事、ツールは情報システム、売上は営業と、予算の出どころと成果の責任者が分かれているため成果まで見届ける担当者がいません。その結果、評価は参加率や満足度アンケートで止まってしまいます。
営業組織は売上や利益を追いますよね。最新のAIツールを導入したり、研修費を増やしたりした結果、売上や利益がどう変わったのかを確認する必要があります。
検証のない営業強化は、むしろ施策が増える分、工数が増えるという悪循環に陥ります。また、期待する効果がすぐに出ないから、他の優先度の高い投資に回そうとイネーブルメントを辞めるケースも結構多いです。
施策の実行から効果検証、そして次のイネーブルメント投資へとつなげる。このサイクルを回す重要性を伝えようとまとめたのが本書です。
――山下さんは、これまでにセールスイネーブルメントに関連する2冊の本を出しています。新著はどう違うのですか。
山下
これまでの2冊は、セールスイネーブルメント、つまり営業生産性を上げる施策にフォーカスし、それぞれ入門書と実践書の位置づけでした。今回は一段上のテーマを扱っています。
営業成果を継続的に生み出すセールスイネーブルメントの取り組みは、営業組織の課題全てを解決できるわけではありません。営業生産性を高めるためには四つの柱があります。(下図参照)

一つ目は「営業ROI」です。営業への投資対効果を測る考え方で、営業に投じたお金や人、時間がどのぐらい利益を出したのか、どこにボトルネックがあるかを測る物差しです。
二つ目は営業組織全体の収益に責任を持ちリーダーシップをとる「営業CRO(最高収益責任者)」という役割です。そして三つ目は現場の行動を変え、成果につなげるセールスイネーブルメント。四つ目は営業方針を経営から現場の商談まで正しく届けるためのコミュニケーション技術です。
私は、この四つが揃えば、少ない人数でも圧倒的な成果を出す営業組織ができると考えています。新著では具体事例や、ファクトを交えて分かりやすく解説しています。
営業のスキルやノウハウを解説する本はたくさんありますが、経営の視点から営業現場の具体的な行動まで、利益につなげる仕組みを網羅して解説している点が特徴です。
日本企業に「根性型」が多い背景は?
――さまざまな企業の営業支援をする中で、見えてきたことはありますか。
山下
本書でも触れましたが、営業ROIと再現性のマトリクスで示した下図で説明すると分かりやすいと思います。私は実は日本企業は左下の①の根性型が多いのではないかと考えています。日本企業には「営業は先輩の背中を見て覚えるもの」というOJT文化が根強く、数字もやり方も個人任せになりやすいからではないでしょうか。最終的には④の高生産性型へと移行できればいいのですが、①→③→④のように利益率を高めて投資してから高生産性型へとステップを踏む企業、①→②→④のような再現性を高めてからという企業もあります。
まずは自分たちがどの立ち位置か分からないと処方箋は見えないので、組織の立ち位置を把握してから営業組織の改善に取り組んでほしいです。

――新著ではAIの活用についても触れています。
山下
目的や前提の整理がないままAI導入ありきのケースが多いと感じます。営業ROIのどの指標を改善するのかを明確にし、新規案件の創出を目指すのか、事務作業を効率化して営業活動の時間を増やすのかなど目的を定める必要があります。
――新著を読んだ方が、どう行動変容することを期待しますか。
山下
営業生産性の向上を会社全体で取り組むべき課題だと思っていただければ嬉しいです。
営業ROIという「ものさし」、投資を配分する「営業CRO」というリーダー、セールスイネーブルメントという仕組み、そして伝える技術、四つの柱を実行する前に、自分たちの“現在地”を確かめ、組織として何に取り組むかを考えてほしいです。
セールスイネーブルメントは「育成」ではなく「投資」
ここからは、実際にセールスイネーブルメントに取り組んできた株式会社BuySell Technologies(以下、BuySell)の事例を紹介します。代表取締役社長兼CEOの徳重浩介氏に導入の背景や成果、課題について聞きました。
――BuySellが、セールスイネーブルメントに取り組み始めた背景を教えてください。
徳重
当社は出張買取事業と、店舗買取事業のリユース業で、人の介在価値が大きい労働集約型のビジネスモデルです。査定担当者が、お客様のご自宅を訪問して品物を査定し、売っていただきます。担当者の対応力によって売却いただける量は変わります。
当然のことながら、担当者によって対応力には差があります。ただ、その差を分析することで対応力の平準化はできます。そこで営業活動のプロセスを分解し、各担当者のスキルを可視化し、課題に応じて育成する仕組みをつくりました。
――具体的にどのような取り組みですか。
徳重
オンボーディングのトレーニングに加え、成果を上げている担当者の商談を分析し、商材ごとにノウハウを整理しています。
また、AIを活用したロールプレイングにも取り組んでいます。これまでは、センター長などのマネージャーやリーダーが個別に営業担当者の練習相手になっていました。ただ、組織が大きくなるにつれ、全員に十分な練習機会を提供することが難しくなっています。
そこでお客様のさまざまなパターンを想定し、AIを相手にロールプレイングできる仕組みを開発しています。担当者が繰り返し練習できる環境を整えることで、組織全体の対応力を高める狙いです。

――定量的な成果は出ていますか。
徳重
2023年後半から、以前にご利用いただいたお客様を再訪問する取り組みを強化しています。始めた当初の再訪率は数%でしたが、今は20%台前半の水準で安定して推移するようになりました。担当者の水準が上がっている証左だと思います。
こうした変化はセールスイネーブルメントだけによるものではありません。営業活動全体の改善を進めてきた結果と考えています。重要なのは、お客様との接点の質を高めることです。それが満足度の向上につながり、再訪問や新たな買取の機会を生み出していきます。
――徳重さんご自身は、セールスイネーブルメントをどう捉えていますか。
徳重
リクルート時代に山下さんの著書を読み、セールスイネーブルメントを知りました。大切だと思ったことは単なる育成ではなく、投資として捉えることです。
変化の早い今の時代、「先輩の背中を見て覚える」「仕事をしながら経験を積む」といった方法では成果を出すまでに時間がかかります。営業活動のプロセスを分解し、成果につながる行動を整理して、組織に定着させることが会社の成長につながります。
山下
育成だけに注目すると研修を行い、受講者の満足度を確認して終わってしまうことがあります。本当に見るべきなのは行動変容があったか、業績が改善したかということです。
イネーブルメントする側の育成にも注力
――今後、BuySellで注力したいと考えている営業改善の課題はありますか。
徳重
イネーブルメントする側であるマネージャーのレベルを上げたいと思っています。ただ、マネージャー育成はプレイヤー育成に比べて一段上の難しさがあります。
山下
マネージャーイネーブルメントですね。
徳重
そうです。マネージャーイネーブルメントはどうしても精神論に寄ってしまうところがあります。私たちがプレイヤーに“Way”や“How”を教えているのと同じように、マネージャーにもマネジメントの実務を体系的に学んでもらう研修も検討しています。

山下
当社でもマネージャーイネーブルメント支援を行っています。例えば、BtoB営業のマネージャーを例に挙げると、商談の側面での関わり方を支援する「ディールコーチング」と、「チームマネジメント」「ピープルマネジメント」と三つのカテゴリーに分けて、実務をプロセスごとに分解して、実践できているかを測っています。
徳重さんが言われた“Way”や“How”の部分は言語化が難しいと思います。それが属人化する要因かもしれません。そのあたりの言語化をサポートできるといいですよね。
徳重
ありがとうございます、まさに取り組みたいと思っているところです。2027年のテーマにしたいと思います。
※役職とインタビュー内容は2026年11月05日時点の情報です。
