株式会社トライアルホールディングス(HD)前社長の亀田晃一氏が、2026年5月株式会社イングリウッド取締役会長に就任しました。トライアルHDで上場や西友のM&Aをリードした亀田氏が、イングリウッドを選んだ決め手は何か。イングリウッドで描く成長戦略やミダスキャピタルの印象などを聞きました。
◆プロフィール
株式会社イングリウッド取締役会長
亀田 晃一氏
1964年⽣まれ。1987年横浜国立⼤学経営学部経営学科卒業後、株式会社富士銀行(現みずほ銀行)入行。事業調査、プロジェクトファイナンス、ベンチャーキャピタル、企業再生、M&Aなどに従事。2008年トライアルカンパニー取締役CFOに就任、財務体質の改善と北海道の上場小売業カウボーイの買収を推進。専務取締役、取締役副社長を経て、2015年トライアルHD設立に際して代表取締役社長に就任。財務戦略、資本政策、組織再編、M&Aを推進して、グループの成長を牽引。2025年代表取締役社長を退任。2026年5月株式会社イングリウッド取締役会長就任。
ウェブマーケティングの強さに着目
――イングリウッド参画の決め手は何だったのでしょうか。
トライアルHDの社長を退任後、いくつかの企業からお話をいただいていました。ですが、同じリアルの小売業ならトライアルに残ったほうがいいと考えていたんです。
その頃、みずほ銀行時代の後輩である大櫃さん(大櫃直人・ミダスキャピタル専務取締役パートナー)が、ミダスキャピタルに移ることを知りました。失礼ながら、それまでミダスキャピタルのことをよく知らず、最初に話を聞いた時は非常に驚いたのですが、大櫃さんが楽しそうに会社のことや、優秀な事業家の方たちが集まっていることを話してくれたことが印象的で興味を持ちました。
その後、吉村さん(吉村英毅・ミダスキャピタル代表)にお会いし、投資先企業の方々と接点を持つ中で、イングリウッドの黒川さん(黒川隆介・株式会社イングリウッド代表取締役社長兼CEO)と意気投合しました。

イングリウッドは自社ブランドの企画・販売から、メーカーや小売業のマーケティング支援まで手がけており、ウェブマーケティングが非常に強い会社です。2005年の創業時からEC支援事業を手がけ、従来の4マス媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)からウェブへと広告の主戦場が移る中で、ポジションを築いてきました。今後は、ウェブにとどまらず、リアルの顧客接点をどう生かすかが重要になると考えています。アパレルブランド「Champion(チャンピオン)」のM&Aによって、リアル店舗も事業として持つことになったので、これまでの店舗運営の知見も生かせると思っています。
――ウェブマーケティングの他に、イングリウッドの強みは何でしょうか。
食品や化粧品などの自社ブランドを、工場を持たない「ファブレス」の形で事業展開しているので、設備投資を抑え、投資負担が少ない中で高成長が可能なビジネスモデルを構築しています。トライアルHDも「居抜き出店(テナント出店)」による出店モデルを持っていたので、財務体質を崩さずに高成長を遂げることができました。
また、自社ブランドに加え、他のメーカーへのマーケティングやコンサルティング支援も手がけています。このノウハウを生かすことができれば、他の小売業との連携も進めやすく、M&Aや資本提携による成長加速も可能になると考えています。
ミダスキャピタルもイングリウッドも、自社だけですべてを手がけるのではなく、さまざまな企業と連携して事業を進めています。社会全体を良くしようと考えたときに、優秀なパートナー企業と力を合わせて取り組むことが、これからの日本では重要になります。
――銀行時代から多くの経営者を見てきたと思いますが、ミダスキャピタルの吉村代表の印象はどうでしたか。
熱く語る経営者が多い中、淡々と話す姿が印象的でした。でも、芯は強いなと。ビジネスで得た収益で社会貢献事業を行うミダス財団なども立ち上げています。
社会貢献に資金を投じる企業はたくさんありますが、吉村さんは実際に事業を推進する人を採用して、東南アジアに学校まで建設しています。そこまでやっている人なら面白いな、一緒にやりたいなと。私は歴史が好きなのですが、吉村さんは現代の渋沢栄一のような方だと思います。渋沢栄一は多くの人や企業、資本をつなぎました。そういう意味で吉村さんとどこか通じるものがあると感じています。
「チャンピオン」のM&A、リアル店舗で顧客接点を広げるチャンス
――2026年5月にイングリウッド会長に就任後、どのようなことに取り組んでいますか。
主に二つで、一つはファイナンスです。先述の通りイングリウッドは2026年6月にアパレルブランド「チャンピオン」の日本事業を伊藤忠商事株式会社と共同で取得しました。今後もM&Aを積極的に進めていくためには、資金調達の基盤を固める必要があります。金融機関との取引を深め、M&Aを機動的に進められる体制を整えています。
もう一つは、商品や店舗といったリアル資産を持つ企業とのパートナー関係づくりです。ウェブマーケティングに強いイングリウッドがリアルとの接点を増やせるように、これまでのキャリアで築いたネットワークを生かし、メーカー、卸、小売といった流通業界の方々とのコミュニケーションを深め、協業の可能性を探っています。
――「三ツ星ファーム」で食品、「Aurelie.(オレリー)」や「AKNIR(アクニー)」でスキンケア、ヘアケアと事業領域を広げてきましたが、チャンピオンのM&Aにより、アパレルにも領域が広がりました。これによって何が変わりますか。
チャンピオンのM&Aによって、イングリウッドはリアル店舗を持つアパレル事業に関わることになりました。今後、店舗とオンラインを組み合わせ、どう顧客との接点を広げていくかが一つのテーマです。
例えば海外では、旗艦店でデジタル上の顧客体験とリアル店舗の体験を組み合わせてコミュニティーをつくり、顧客との接点を広げる事例も出てきています。
チャンピオンでもそうしたことができないか、黒川さんと店舗を視察しています。PMIは簡単ではありませんが、価値のあるチャレンジだと思っています。

20年、30年の長期的視点で成長戦略を描く
――みずほ銀行とトライアルHDでの経験をどう生かしますか。
銀行での企業分析や事業投資の視点と、トライアルHDで築いてきた人脈を生かします。
銀行員としては珍しいキャリアを歩んできたと思います。本部での振り出しは調査部で、希望して行きました。大手銀行の調査部に来る案件は大きな転換点を迎えた企業に関するものが多いです。企業の変化を見る上で勉強になりました。
その後、プロジェクトファイナンスを担当し、大型テーマパークや鉄道新線のプロジェクトに携わりました。テーマパークや鉄道の開業に伴う周辺の不動産価値の向上による投資回収といった、20~30年ぐらいの長いスパンで投資をどう回収するかを学びました。
企業はどうしても単年度の業績を気にしがちですが、長期的な視点で事業成長や投資回収を考えることが大切です。こうした視点は、イングリウッドでも生かせると思います。
私がトライアルに入社したのは、創業約20年がたった頃でした。偶然ですが、イングリウッドも2025年に創業20年目を迎えました。何が言いたいかというと、企業が成長するまでには一定の時間がかかりますし、事業をダイナミックに伸ばすためには長期的な視点が必要だということです。これは外部資金を入れず自己資金だけで運用し、短期的なエグジットを行わないミダスキャピタルの方針とも共通しています。
銀行では企業再生とM&Aも担当し、この経験がトライアルHDで生きました。
会社を成長させていく上では「強い意志」を持っていることが何より大切だと思います。ケイパビリティはおのずと身についていきますが、肝心なのは「何をやろうとしているか」という意志です。イングリウッドには黒川さんをはじめ、熱い思いのある経営陣が集まっています。これからが楽しみです。
――最後に、これからの20年はどんなキャリアを描いていますか。
AIが飛躍的に発展し、産業革命に匹敵する構造変化が起きている時代に、ビジネスの最前線に立てるのは幸せだと感じています。AI開発スピードを緩めた方がよいと、人間が恐れを感じるほどテクノロジーが進化している中で、産業の構造も大きく変わっていきます。流通もメディアも、さまざまなものの概念が変わるでしょう。
個人が持つポテンシャルも、こうした背景のおかげで開花し始めています。以前なら人生をかけて作家を目指していたのが、今は気軽に書き始めた人の作品が大ヒットすることもあります。
マーケティングも変わっていくはずです。一つは五感を刺激するという点で、触感や匂いなど、デジタルだけでは届けられないリアルの体験価値も再び見直されています。もう一つはファンマーケティングです。これまでメーカーが発信し、消費者が受け取るだけになっていた情報の流れから、インフルエンサーが情報を発信し、その中からブランドが生まれるという新しい流れが起きています。消費者の中からコンテンツメーカーが生まれ、メーカーと消費者が融合し始めていると思うんです。
ミダスキャピタルではよく「景色が変わる」という表現をしますが、イングリウッドというポテンシャルの高い企業で、優秀な事業家の方たちと新しい景色を見たいと思っています。また、イングリウッドは若い社員が多く非常に優秀で刺激を受けています。先日の全社キックオフでも、若手の社員たちが堂々と自分の夢を語っていました。周りの皆さんから学ばせていただき、挑戦し続けます。
――ありがとうございました。
※役職とインタビュー内容は2026年10月21日時点の情報です。